儚くて、白い、ひとひらの

ことばたちは舞う雪のようにはかない。

妹からの手紙

親愛なる兄さん

 

兄さん、お元気ですか?

黒衣森の木々たちは新しい芽を出し、若葉たちが新緑の薫りを運んできてくれます。兄さんが冒険者になるといって旅立っていったあの日から、どの位の月日が経ったのでしょう?

私たち夫婦は、木々たちの声を聞きながら、園芸師として穏やかな日々を送っています。兄さんはお元気ですか?

 

兄さんが冒険者として旅立ってから、最初は手紙でしか様子を伝え聞くことがなかったので、噂に乗って届くエオルゼアの英雄が兄さんだと聞いた時には、俄かには信じられませんでした。だけど、今ではなんだか、わかるような気がしています。

 

私が13歳の時ー今から10年も前のことになるのねー私が家族に黙って、黒衣森の奥の花蜜桟橋に花を摘みにいって道に迷い、ワイルドホグレットに襲われた時のこと、覚えている?

水辺に追い詰められて、もうダメだ!と思ったとき、颯爽と現れたのが兄さんでしたね。あの時みた兄さんは、私にとっての英雄そのものだったわ。

槍を向けて立ち向かった兄さんの顔を、ホグレットの爪が傷つけたけど、怯むことなく森の奥へと追いやってくれたよね。

あの時私は兄さんから叱られることを覚悟していたけれど、兄さんは優しく笑って頭を撫でてくれた。「今日は母さんの誕生日だ、母さんの好きな花を早く摘んで帰ろう」と笑ってくれた。兄さんは私のこと、何でもお見通しだったんだよね。

 

それから5年後、あの第七霊災が起こって、混乱の中、私たちは父さんと母さんを失った。私は18歳、兄さんは30歳、私は立ち直れないほど憔悴していたけど、兄さんは私の顔をみてこう言ってくれた。

「大丈夫、何があってもお前を守るから」…と。

 

それから5年、私を守ったせいでできたワイルドホグレットに付けられた顔の傷ーいや私の存在そのものが、兄さんを結婚から遠ざけてしまったのではないかと思っていたわ。

兄さんは、俺は1人でも生きていける存在なんだ、お前に心配されるほど弱くはない、と笑っていたけれど、それは本当の心から出たことばだったのかしらと今でも考えるの。

 

私が23のとき、優しい園芸師の夫との結婚を考えていることを伝えたとき、兄さんはとても喜んで、こう言ったわ。

 

「これで俺の役目も終わったな!これからは冒険者となってまた新しい人生を探すさ」

 

それは、兄さんがひとりになることを心配する私の心を、見透かしてついた優しい嘘であると同時に、兄さんの本心でもあったこと、私には分かっていた。

兄さんは仕事が終わったあと、毎日夜こっそり黒衣森の奥に出かけては、槍の訓練をしていたんだもの。

 

私だけの英雄だった兄さんが、今やエオルゼアの英雄になったんだね。

 

一人でも生きていける存在なんだ、そう言っていた兄さんが、今は暁の血盟や、いろんな人々の間で生きていること、私は必然だったんだと思います。

 

兄さんが新しい土地に行くたび、私のみたことのない果物や野菜をおくってくれるので、夫と楽しみにしているけど、今度は東方の国にいるときいてびっくりしています。兄さんが贈ってくれた、東方の果物、パーシモン(東方では柿と言うらしいわね)がとても美味しくて、園芸師仲間と、グリダニアでも育てられないか、調べているところよ。

 

ラベンダーベッドに一軒家を買ったと聞いて、夫ととったサンシャインアップルを届けているけど、食べてくれてるのかな。世界中を飛び回って、家に帰ることなんてほとんどないということだし、心配しています。

 

英雄の妹ということで、私に危険が及ばないよう、私には会いに来ないようにしているみたいだけれど、たまには戻ってきてほしい。いや、今回は戻ってきて、という手紙です。

 

私に赤ちゃんが出来たの…!

生まれる時には兄さんにも抱いてほしいなと思って、実はこっそりアルフィノ様にも兄さんに会えるようお願いしたの。ごめんなさい。でもそういうことならと、私たちがゆっくり会えるよう、グリダニアの不語仙の座卓を用意して下さるそうよ。

秋の気配がして来るころです。楽しみにしていてね。その時には花蜜桟橋であの花を摘んで、父さんと母さんの墓前にもふたりで供えようね。

 

槍を抱えて出て行った兄さんが、今は侍として生きていると聞いています。異国の衣装、着流しで帰って来る姿、楽しみにしています。

 

それでは今日はこの辺で。

 

あなたの妹より

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